【再掲】軍事クーデタがミャンマー国境の犯罪地帯化に拍車。(USIP報告書)
※2021年4月26日に投稿した記事を再掲する。
同年4月21日付で発表されたUS Institute for Peace (USIP) のリポート抄訳。この報告書は、軍事クーデター後の混乱が、少数民族ゲリラと中国マフィアの結託を容易にし、ミャンマー国境地帯での違法ビジネス(違法カジノ、オンラインギャンブル、コールセンター詐欺)が制御不能になることを予見していた。
報告書では、仏教徒カレン族の支配地域にある大カジノ特区が主に取り上げられているが、同地域では、10月27日作戦以降、中国政府を刺激しないために、ターゲットを中国人以外にシフトする動きがあるのだという。事実だとすれば、国境での違法ビジネスは、東南アジア各国にとって依然として脅威であり続けることになる。
以下、USIP の報告書。
~経済と政府の崩壊がミャンマー国境の犯罪集団に新しいチャンスを与えている~
ミャンマーがまた、国際的犯罪集団を引きつける強烈な磁場を持ち始めた。経済は崩壊、法秩序は失われ、混乱が拡大して、合法的なビジネスは殆ど不可能になった。これは犯罪集団にとって絶好の機会であり、民選政府による監視によって、しばらくおとなしくしていた彼らが、またうごめき始めたのである。。軍部が強引に支配を確立したこの二か月間で、ミャンマーの犯罪は劇的に増加した。国際犯罪を抑え込もうとするアセアンの努力と能力に対する、新たな挑戦である。
中国政府と中国マフィアが、時折、対立しあいながらも、中心的役割を果たし、相も変わらず、マフィアグループと、ミャンマー国境警備隊(BGF)、武装民族グループが違法ビジネスで結託している。すべてのグループがクーデターで力を盛り返し、犯罪で利益を得る新しい機会を得たのである。
経済状態ひとつをとっても、犯罪組織にとっては絶好の機会だ。銀行は殆ど開かないし、小売業、製造業もボロボロ、混乱が全国津々浦々に波及している。内外の大型投資家は、何十億ドルという資金を引き揚げ、小口の投資家も投資をやめようとしている。ある中小キャピタルファンドのマネージャは我々にこう語った。「インターネットにアクセスできないし、治安は最悪、キャッシュじゃないと商売できない状況で、投資を続けていく理由がない」世界銀行のミャンマーの成長率予測はマイナス10パーセント、民間のアナリストではマイナス20パーセントを予測するところもある。
〇犯罪都市 Shwe Kokko 活動を再開。
クーデターの直前、アウンサン・スーチー女史が率いるミャンマー政府は、タイーミャンマー国境での中国人の犯罪活動にメスをいれようとしていた。
最初の第一歩は、カレン州 Shwe Kokko 経済特区 での違法ギャンブルやマネーロンダリング問題を調査することだった。腐敗の巣窟であるBGF(カレン族の国境警備隊)は、指名手配中の中国人ビジネスマン、She Zhi Jiang と組み、違法ギャンブルで得た資金で、数十億ドル規模の経済特区を作ろうとしていた。She の Yatai Company はバンコクに拠点を置いて、Shwe Kokko 経済特区にオンラインギャンブルを導入し、シンガポールのGBCIと共に、違法な金融取引を可能にするアプリ Fincy を立ち上げていた。
ミャンマー政府の努力は効を奏したかにみえた。シンガポールのGBCIが事業から撤退すると正式に表明し、中国政府もプロジェクトとの関係を断ち、違法行為の取り締まりに協力すると発言したのである。事実、クーデターのほんの二か月前、2020年11月には、Shwe Kokko 経済特区 での中国人の犯罪を裁く裁判が中国で開かれようとしていたのだ。
しかし、今年に入ってクーデターの噂が流れ始めると、BGFとShwe Kokko 経済特区に対する風当たりは急に弱くなり、クーデターが発生した2月1日、幾つかのフェイスブックが、Shwe Kokko Ciry の再開を宣言する。悪名高いナイトクラブは、最低2万バーツを支払って参加する大きなイベントを矢継ぎ早に催した。Shwe Kokko 経済特区は復活したのだ。
数か月間やめていた労働者の求人も、フェイスブックやWeChatで再開していた。求人の内容には、中国国境のコカン族地域から来るための交通手段も含まれていた。テレフォンカード、両替屋や送金アプリのな広告も目に付いた。Shwe Kokko Yatai Ciry というオンライングループの投稿はもっと露骨で、ポーカーのチップ、サイコロ、カジノのフロアーの写真を載せている。
〇ミャンマーに出現した新興中国マフィア
以前のリポートで紹介したが、さらに性悪な中国アンダーワールドの面々が、2017年ごろからカレン族の領内に巣くい、BGFと結託して、違法ギャンブル、詐欺、マネーロンダリングなどの犯罪行為を街中に広めていた。
彼らの首領は、14Kマフィアの親分、Wan Kuok-Kui である。彼ら一味は、カレン州内でSaixigang(中国語で「シアヌークビルを越えて」という意)と呼ばれる一党であり、この名は、彼らの以前の犯罪拠点、カンボジアとのつながりを暗示している。
※シアヌークビルはカンボジア南部の港町。カンボジア政府による取り締まりが始まるまで、中国系マフィアによる違法ギャンブルビジネスの拠点だった。
殺人、武器の密輸などの罪でマカオで服役した後、Wanは、「世界洪門歴史文化協会」という眉唾な国際ネットワークをカンボジアで設立する。カンボジア、タイ、マレーシアでビットコイン詐欺をはたらく傍ら、このネットワークは、United Wa State Army (UWSA)のテリトリーでカジノも経営していた。これらの活動により Wan は、アメリカ財務省から、「国際政治金融システムの安定への脅威」として2020年12月制裁の対象とされている。また、中国の「一路一帯政策」を犯罪の隠れ蓑にしているとも指摘された。
※洪門とは天地会のこと。反清復明、滅満興漢を合言葉に明朝復興を目的に活動した秘密結社。東南アジアの華僑を広く組織して興中会創立当時の孫文を支援した。英語で、Chinese Freemason とも呼ばれる。
クーデターの翌日、世界洪門歴史文化協会は、WeChatの公式アカウント名 Hongmen Myanmar として福建省で登録されている。このサイトの宣伝文句には「洪門歴史文化協会ミャンマーは、中華人民共和国の対外政策を支持する」とあり、「中国の統一を支持し、ミャンマーと中国の友好関係の発展、ミャンマーの経済発展、一路一帯政策に寄与する」と書かれている。
ここで、Wan Kuok-Kui は、「2020年から、試験的にミャンマーに投資している愛国的中国人投資家」として描かれている。また、このサイトは、ミャンマー国内の中国資産を守るために、Kokang Border Guard Force 指導部が経営する Baisheng Company と提携するとも述べている。このサイトが触れていないのは、Baisheng Company が、コカン特別自治区で一番大きな違法カジノを経営している会社であることだ。
「Wan Kuok-Kui の影響力によって、天地会ミャンマーは、コカン族地域を経済的に反映させ、ミャンマーの中心部に進出するであろう」とこのサイトは予言している。
〇中国は取り締まりに真剣か?
報道によれば、タイーミャンマー国境は、国軍の凶暴な弾圧から逃げてくる難民には厳しく閉じているという。しかし、中国人に関して言えば、中国側からもタイ側からも、ミャンマーに違法に入国できるようだ。2月21日と24日、中国の警察は、ミャンマーのカジノに向かう中国人グループ二組を捕まえているが、大多数は捕まらずにミャンマー側のカジノへ無事ついて働いていることだろう。
この5年間、中国政府はオンラインギャンブルや詐欺など国際犯罪の撲滅キャンペーンにいそしんできた。しかし、逮捕者が増加するなか、Wan Kuok-Kui は奇跡のように逮捕を免れている。この間、中国本土と東南アジアで、彼の事業は拡大しているのである。数多ある仮想通貨スキームの他にも、中国本土で鍋料理のレストランチェーンを経営し、独自ブランドのアルコール類を販売しているのである。
マレーシアで Wan は、司直の手から逃亡中の人物なのだが、中国ではそうではない。Wan は昨年中、政府関係者や企業幹部と何度も行事に同席しているのである。今年3月には、中国国際経済技術協力促進協会(CAPC)の海外統一作業委員会から、愛国的精神と海外での貢献に対して表彰を受けている。
これは大変なことだ。
CAPCは、中国人民政治協商会議(CPPCC)のWan Gangが指導する中国科学技術協会傘下のNGOであり、政府からの支援も受けている。政治協商会議は中国共産党の枢要な諮問機関で、党や政府の方針に影響を与えうる機関なのである。マレーシアの治安当局が今年2月にWanの逮捕状を請求している時に、政治協商会議のような重要機関が名の知れた犯罪者と席を同じくしたことは遺憾と言わざるを得ない。CAPCは、Wan Kuok-Kui を表彰する前に、必要な身体検査をしなかったかのか?あるいは、Wan の持つ東南アジアのエリートたちへの影響力を利用しようとしたのか?それとも、東南アジアの治安当局と中国政府との間の意思疎通に齟齬があったのか?
〇中国人の国際犯罪に手を焼く東南アジアへの示唆
ミャンマー国軍の法の支配への暴力がもたらした政治的空白は、犯罪グループにつけいる余地を与えており、腐敗した軍と犯罪グループの結託が、カレンで見たような形で、ますます頻繁に起こってくるだろう。Wan Kuok-Kui の洪門歴史文化協会のような野心的な組織が、軍部の暗黙の了解のもとにミャンマーに根を下ろし、中国国境を拠点に、中国や東南アジア全域に活動を広げていくだろう。
ミャンマーの統治システムが急速に崩壊していく中、東南アジア諸国に、中国系マフィアの犯罪が国境を越えて波及するリスクが高くなった。タイ国では、洪門協会は、支払いアプリやE-コマースプラットホームの販売拡大に力を入れている。これはおそらく、違法な国際取引を手助けするためだろう。マレーシアでは、ビットコイン詐欺で投資家から数百万ドルを盗み取った容疑で、Wan Kuok-Kui の部下が逮捕されている。
周辺諸国は、ミャンマー軍部のクーデターにより引き起こされたカオスが、国境を越えて不安定要因として作用することを認識する必要がある。中国系国際犯罪組織の跳梁は、ミャンマーの混乱が最初に引き起こした、国際金融システムと、腐敗抑止の努力に対する挑戦かもしれない。
<了>
以上 US Institute for Peace のリポート”Chaos Sparked by Myanmar Coup Fuels Chinese Cross-border Crime”(2021年4月21日)より。
参考
https://hype.my/2021/220873/police-arrest-dato-sri-nicky-liow-soon-hee-after-searching-for-18-hours/