街角ピックアップ〜タイ仏教界の重鎮と左翼リジェンド知識人の奇妙な揃い踏み
この写真は、コロナ流行初期に、タイの有名な開発僧パヨーム師が住職を務めるスワンケーオ寺で撮影したもの。このお寺は、広大な農園を経営していて、そこで採れたマンゴーを、コロナ予防の免疫力を高めるためとして、パヨーム師自らが街に出て配っていた。
写真の場所は、「説教僧」でもあるパヨーム師がプレスのインタビューに答えたり、訪れた信者の相談に乗ったりする面接所である。向かって右は、ブッタタートという高僧(開発僧の始祖のような人)の弟子だった若きパヨーム師の労働に勤しむ写真。左下に置かれているのは、左翼知識人チット・プーミサクの似顔絵である。
チット・プーミサクは、史的唯物論の観点から、タイの伝統的制度や価値観を批判した人で、おそらくその批判の矛先は仏教にも向いていたのではないか。プーミサクは、度重なる投獄ののち、タイ共産党の武装闘争に参加し、戦闘中に亡くなっている。今でも、一部左翼知識人から崇拝される偶像的な人物だ。
共産主義者と高僧の取り合わせに驚いたが、取材のテーマから離れるので理由を聞きそびれた。タイ仏教の多数派であるマハニカイ派教団の重鎮の、いわば応接室に、タイのリジェンド共産主義者の似顔絵が、どんと、ど真ん中に、置かれていたわけで、これは何かの理由があって、そうしているに違いないのだ。
ひょっとしたら、共産主義の唱える近代の平等主義と、カースト差別を否定した釈迦の教えとは通底するものがあるのかもしれない。だから、インド被差別カーストの指導者、アンベートカル博士が「ヒンズー教の中にいてはインド不可触民に救いの道はない」として仏教徒に集団改宗したエピソードなどを聞くと、「仏教徒の家に生まれたもの」(仏教徒とは言えない)としてなんとなく誇らしい気持ちにもなるのである
<了>
参考