街角ピックアップ〜冗談ごとではない「牛に注意!」の標識
ブリラム県の「農村幹線道路」にある「牛に注意の標識」。タイの田舎で生活していると、自転車で走っている時に、道を横切っていく牛や水牛のグループと出会ってスピードを落とすことは、決して珍しいことではない。牛の通り道になっている所は、硬く乾燥した牛のふんだらけになっているので、牛がいなくても、スピードを落とさないと自転車がジャンプしてお尻が痛くなる。
見通しが良い昼間はそれで対処できるが、夜となるとそうはいかない。特に、ガタイのでかい水牛は、スピードが出る自動車、バイクにとって大きな脅威となる。
カミさんの親戚のおばさんが災厄に見舞われた。この人は、若くして夫を失い(農作業中に落雷で亡くなったのだ)、村で雑貨屋を経営しながら、女手一つで三人の娘を育て上げた傑物である。毎朝、2時ごろに起きて、40分ほど離れた町の市場へ車を運転して買い出しに行く。
その日も、買い出しを済ませた未明、この写真の標識のある「農村幹線道路」にピックアップトラックを走らせていると、真っ黒い大きな生き物が、ヘッドライトの光の輪に突然現れた。慌ててブレーキを踏んだが間に合わず、車は前方部分が大破、水牛の方は頑丈なもので、大きな怪我はなく歩いて立ち去ったという。(車が「華奢で壊れやすい」と定評のある日本車であることが、水牛には幸運だったようだ)
事故車は、こちらで人気のある「いすゞリマックス」で、修理には7万バーツ(約28万円)かかるのだそうだ。修理代をめぐっては、牛の所有者と裁判で係争中であるが、事故直後に交渉した際、相手が修理代を払う旨の言質をとって、その様子を携帯で隠し撮りしているので、裁判では勝てるだろうと、おばさんは自信を持っている。水牛の持ち主は、タンボン委員会の議員だから、メンツを気にして、途中で示談に応じるだろうという目算もある。
今まで自分は、「牛に注意」の標識を、ユーモラスな農村風景として見ていたが、認識が変わった。こういう事故が年に何件かは起こるらしいのだ。自治体も洒落や冗談で予算を割くはずもない。7万バーツと言えば村の雑貨屋の女主人にとっては大きなお金だし、一つ間違えば人身事故となって、旦那と同じく、極めて珍しい不慮の事故で、おばさんがこの世におさらばすることもあり得たのだ。
自分は、その日の午後、バンコクに用事があって、町の長距離バス乗り場までおばさんに送ってもらう予定だった。事故のおかげて他の車を探さなければならなくなったわけだが、そういうこともあって、この事件のことが印象に残っていいる。
<了>