深刻化するミャンマー「革命勢力」の内部対立〜アラカン軍チン州に勢力拡大を目論む?
2014年8月28日付 Frontier Myanmar 記事から
記事題名『両雄並び立たず?〜チン州の革命勢力分裂!』
チン州武装グループ間の勢力争いが深刻化している。その詳細は、上記記事を読んでいただくとして、大雑把に言うと、チン族内の地域対立(北のLai 族と南の Mara 族)に、他民族の組織であるアラカン軍が介入したことが(南のMara 族に武器、訓練支援、時に共同作戦)、対立激化の大きな要因らしい。
図式的に言うとこうなる。
チン州北部 CNF=Chin National Front (亡命政権が支援)
VS チン州南部 Chin Brotherhood (AA=アラカン軍が支援)
Lai 族を主流とする北のCNFは、1988年に設立された古参民族組織であり、チン州選出の国会議員の過半数から支持され、亡命政権の支援も受けるチン州「革命勢力」の主流派である。昨年12月に、反軍グループのアンブレラ組織から離脱、賛同する他のグループを糾合して「チンランド評議会」を立ち上げ、チン州全域を統治すると宣言して州政府を樹立した。
この動きに反発した Mara 族を中心とする南部のグループが Chin Brotherhood を結成し、軍事力、政治的サポートで優位に立つ主流派に対抗するために、アラカン軍の支援を受け入れた・・・とこういうことらしい。
アラカン軍は、昨年10月にシャン州北部で蜂起し、軍政から歴史的勝利を勝ち取った Brotherhood Alliance の一角であり、現在、急激に勢力を伸ばしている民族武装組織である。アラカン州(ラカイン州)はチン州の南隣に位置している。
今年1月、チン州南部にある国境貿易の重要都市 Paletwa をアラカン軍が軍政から奪取したことにより、対立は一気に深まった。以下、同記事より引用。
Meanwhile, the AA’s growing presence in Chin has deepened the division between Chin groups. After its seizure of Paletwa in January gave it a presence on the India border, the Rakhine armed group extended its influence northwards by joining hands with the Chin Brotherhood.
The Chinland Council has taken a strong exception to this. It views the AA as an outsider trespassing on Chin territory and engaging in “anti-Chin” activities. In the same vein, it sees the Brotherhood’s collaboration with the AA as detrimental to the wider Chin struggle.
チン州全体を代表する政府として自らを位置付けたい CNF と チンランド評議会は、アラカン軍の「越権行為」を、見過ごすことのできない他民族からの脅威と受け取ったようだ。
同記事によれば、今年6月、チンランド評議会は、アラカン軍を非難する、以下のような声明を出している。
The Council, in a statement dated June 10, made a battery of serious accusations against the AA. These include forcibly recruiting Chin to fight in its ranks, imposing coercive administrative measures, restricting religious freedom and violating human rights in areas the AA occupies in Chin.
<アラカン軍が、支配地域のチン族住民に兵役を強制する他、宗教の自由を束縛するなど(チン族の多くはキリスト教徒)、強権的な統治を行なってる>・・・云々という、厳しい内容の声明である。
※チンランド評議会声明原文(ビルマ語もしくはチン語?のみ)
また、Khumi 族系(チン族の支族とされる)の国際支援組織、The Global Khumi Organisation も以下のような内容の声明を出している。Khumi 族は Paletwa に居住するチン族の主要な支族である。 以下、
Frontier Myanmar の同記事 から引用。
The Global Khumi Organisation released a similar statement on June 4, charging the AA with committing “inhumane atrocities” against Chin people and even engaging in “illegal drug sales and distribution” in the state. The organisation is drawn from the Khumi Chin people, who predominate in Paletwa.
上記引用文にあるように、その内容は、アラカン軍の麻薬ビジネスへの関与を示唆し、チン族住民への人権侵害を指弾する過激なものだ。以下、声明の原文。
Global Khumi Organization の声明原文
対立する一方の見解であり、微妙な内容でもあるので、声明をここに転載しておいた。
「軍政打倒の大義のために他民族との共闘は当然」と主張する Chin Brotherhood に対して、チンランド評議会側は「民主的連邦制を目指すと標榜しながら、権威主義的な支配を行う組織(アラカン軍のこと)と結託している」と Chin Brotherhood を非難している。CNF=チンランド評議会の側は、閉鎖的と批判されることが多い、アラカン軍に対する不信感が強いらしい。
また、「軍政打倒が最大のプライオリティ」と主張する Chin Brotherhood 側と、チン州全体の自治的統治機構の整備を、軍政との戦いと並行して進めたいチンランド評議会の間に、考え方の違い、路線対立があるようだが、裏返して言えば、二つのグループの勢力拡張への思惑が路線対立を生んでいるとも言えそうだ。いち早く州政府を樹立し権力を固めたい後者と、現段階でそうなっては困る、勢力的に劣る前者との思惑の違いである。少なくも、この記事の執筆者は、そう考えているようだ。
Frontier Myanmar の当該記事の執筆者は、Comparative Asian Studies at the National University of Singapore に所属するインド系の若手研究者。本文では触れなかったが、チン州の「南北問題」はインド側のチン族支援グループ(インド側にも同系の民族が住んでいるのだ)も巻き込んだ対立となっているそうで、この点も興味深い。
詳しくは本文をお読みください。
<了>