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◇居酒屋兆治(1983) 感想文

akiyamabkk

キブッセイにやたらに重い居酒屋の主人と、濡れ雑巾みたいにベタベタ気持ち悪いその元恋人。この人たちには「勘弁してくれよ」と思いながら見た。映画を見て勘違いをし、客商売の初心を忘れて店を傾けた居酒屋の主人もいるのではないか。それほど健さんの影響力は大きいのである。(笑)


という事で、主役陣の演技は私はダメなのだが(とりわけ大原麗子。この人のどこがいいのか分からない)、脇役陣が良かった。特に小松政夫。


小松演じるタクシーの運転手は、長年連れ添った奥さんに、扇風機をつけっぱなしで寝たか何かで頓死される。毎晩、足をからめて寝ていた人が突然いなくなったので、代わりに金属バットを抱いて寝ているのだが、それが「冷たくて、冷たくて」と酒を飲んで泣くのである。(笑)


金属バットが冷たいのは当たり前ではないか、と思うが、自分は夫婦仲がいい人達を見るのが好きなせいか、そういうエピソードが印象に残っている。考えて見ると、自分もそうやって寝ているわけで、原作の山口瞳も、奥さんと足を絡めて寝ているとエッセイに書いていた。これは、「ノロケル」とかいう次元の話しではなく、精神安定剤的なものなのである。


小松政夫は昨年亡くなったが、最後の喜劇人と言って良い人ではなかったか。この人がNHKの時代劇で、名作「七人の侍」の菊千代の、あの独特の奇声を真似しているのを見て、「やってる、やってる」と嬉しかった。「はは、ひひ、ほほほほ、へへへ」みたいな、手塚漫画の登場人物がやるあの笑い方である。こういう、知っている人はニンマリする類のギャグをやって、知らない人にも「なんだか面白い」と思わせるところが素晴らしい。だから最後の喜劇人と・・あ、伊東四郎がまだ生きていた!


この小松演じるタクシーの運転手に暴言を吐いて、健さんに殴られるのが伊丹十三。「いるなあ、こういうパワハラ体質の中小企業の親父」と思わせる、禍々しい鬱陶しさだった。他にも、そのまんまで学校の校長先生の大滝秀治とか、連続殺人犯風のカラオケ狂い山谷初男とか、脇役陣が素晴らしく主役二人が浮いていたのである。


大原麗子の役を自分の好きな真野響子がやり、健さんの役を、軽い演技もできる人、例えば中村吉右衛門あたりがやれば、もっといい映画になったのではないか。(完全に自分の好みです、笑) 山口瞳は高倉健を念頭にこの小説を書いたと思うし、健さんでなければヒットしなかったとは思うが・・・


採点 7/10


ちなみに、タイトルの由来となった村田兆治は、寡黙な職人、謙虚ないい人、みたいなイメージだったが、実像は、唯我独尊、オレがオレがの、我儘横暴、超ムチャクチャな人だったようだ。最近、プロ野球選手がYouTubeで暴露するので、そういう事も分かってきた。もちろん彼らは、古き良き時代の野球選手の武勇伝として、少し誇張して好意的に語っているのだが、「居酒屋兆治」の主人公と対極的な人物である事は間違いない。当時はSNSがないので、そういう事が分からなかったのである。


ではでは

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