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出口なし!〜軍事政権と「革命勢力」双方の「徴兵フィーバー」に狩られる若者たち。

akiyamabkk


以下、Frontier Myanmar の一連の記事から。


今年2月、各地で少数民族武装グループの攻勢に晒されて、軍事的劣勢にあるミャンマー国軍が、2010年に成立してお蔵入りしていた法律を持ち出して徴兵制の施行を宣言した。その直後、各国大使館にビザを求める若者の長蛇の列ができた、というのが外国メディアが流したニュースだが、フロンティアミャンマーの現地レポーターは、ミャンマーの現実をより掘り下げた記事を書いている。


4月5日付の記事で、同誌は、徴兵制実施の布告後、ヤンゴンやマンダレーで暮らしていた若者たちが、故郷へのUターンを始めたというニュースを伝えている。クーデター後、ビルマプロパーの紛争地帯となったドライゾーン(マグウェイ、サガイン、マンダレー管区)から、比較的治安の安定した大都市に職と学業の機会を求めてやってきた若者たちが、徴兵を恐れて故郷に戻っているというのである。(同誌は、3月8日付の記事で、人口流入によるヤンゴン市内の家賃高騰を取り上げている)


▫️Conscription or conflict? Dry Zone draft dodgers come home


軍の徴兵を逃れるためには、軍政のグリップが強い大都市よりも、田舎に戻った方が安全なのだという。都会に住んでいると、クーデター政権の役人が、職場や学校に訪れ名簿をチェックすることも日常茶飯事であるし、軍に路上で拉致されて部隊に送られるという噂さえまことしやかに囁かれている。ヤンゴンにある日本語学校の経営者によれば、200人いた学生が、徴兵制実施の布告以降、3分の一に減った。そのほとんどは、サガインとマグウェイの管区出身者だという。


しかし、田舎に戻ったからといって、徴兵から逃れられる保証があるわけではない。「軍の徴兵から若者を守るために苦闘する村人たち」の見出しが、2024年4月26日時点での、フロンティアミャンマー、インターネット版のトップ記事である。


▫️Communities strive to shield youth from conscription


この記事はモン州のある村に焦点を当てている。2010年徴兵法では、18才から35才の男性と18才から27才の女性に二年間の兵役が課せられ、非常事態法の施行時には、徴兵期間が5年を上限に延長される。徴兵の対象になるのは約1400万人、軍側は、一年間で5、6万人の徴兵を目論んでいるという。(女性の徴兵は今のところ計画されていない)


村には500以上の世帯があり、そのうち458世帯に一人以上の徴兵対象者がいる。第一期の徴兵では、この中から4人を兵役に差し出せと軍から命じれているが、村のリーダーたちも子を持つ親の身だから、村の若い衆にできるだけ徴兵は忌避させたい。村のある役職者は、海外脱出に必要な行政機関の推薦状を迅速に出す事を、村の方針にしようと提案した。


しかし、この案は、子供を海外に逃す経済力のない家族に不公平だと反対が出る。最終的には、徴兵者はくじ引きによって選ばれるから、財力のある家の子弟が海外に出てしまうと、残ったものが貧乏くじを引く確率が高まるのである。そこで出てきた案が、一世帯一万チャット(約2.6ドル)を出し合って、兵役を志願したものに謝礼金として与えるというものだった。これなら、4人の志願者にそれぞれ100万チャット(約260ドル)ほどの報酬を与えることができる。


この案は村人の大方の支持を得て実施され、7人の志願者のなかからクジびきで4人が選ばれた。彼らが志願した理由は例外なく、貧窮する家族の生計を助けたいから・・・というものだった。4万円ほどの金のために、生死に関わるリスクを冒さざるをえない現実は悲惨だし、「結局、一番貧しいものに負担を押し付けだけではないか」とも言えそうだが、村人は、兵役志願の自己犠牲に対価を与えられる分だけ、まだしも公正だと考えたのだろう。


このようなやり方は、この村以外でも一般的になっていて、分担金だけ取られて結局徴兵されてしまう詐欺的なケースも起きていると、フロンティアミャンマーは伝えている。


徴兵の恐怖に晒されるのは、軍政=クーデター政権の支配下にある住民だけではない。「革命勢力」を自称する少数民族エリア内でも、クーデター後に高まった徴兵圧力が、住民の日常生活に影を落としている。


4月11日付のフロンティアミャンマー記事では、シャン州の民族組織 The Restoration Council of Shan State(RCSS) の徴兵政策にスポットが当てられている。RCSSは、麻薬ビジネスとの関与も噂される少数民族組織で、シャン州自治政府の樹立を政治目的とし、Shan State Army という軍事組織を持つ。


▫️‘Living in fear’: RCSS conscription kicks off


記事は、シャン州南部の RCSS 支配地域を記者が訪れる「潜入ルポ」。現地入り早々、記者が目にした光景は、訓練用の木製の銃を肩から吊るして、バイクで軍事教練に出かけていく女性たちの姿だった。RCSSは、支配地域に住む住民すべてに兵役の義務を課していて、最近では、女性の徴兵も本格化しているのである。


RCSSが女性の徴兵にまで熱を入れる背景には、他の少数民族組織の攻勢により軍事的劣勢に立たされた焦りがあると、この記者は見ている。昨年、軍政側の軍事拠点に大攻勢をかけ、シャン州北部で大きく支配地域を広げた「三派連合」グループ(Brotherhood Alliance) と RCSS はライバル関係にあるのである。とりわけ、3年前、シャン州北部からRCSS を駆逐した Ta’ang National Liberation Armyon (TNLA) は、年来の宿敵関係にあり、TNLA からの失地奪還を狙った徴兵強化である可能性が高いという。


同誌は、内戦の激化を背景に、国軍、少数民族グループ双方に高まる「徴兵フィーバー」について、こう比較してみせる。


「しかし、中でも RCSSが突出している点は、民族、性別を問わず、即時、無条件に徴兵を実施しようとしていることだ。軍政側も、出身民族を問わない点は同じだが、女性の徴兵は今のところ計画していない。TNLA は女性を徴兵してはいるが、3人以上の兄弟姉妹がいる場合に限っている。Myanmar National Democratic Alliance Army(MNDAA 「三派連合」の中心的武装勢力)も、最近、徴兵強化を打ち出したが、シャン州北部のシャン族出身者に限定している」

RCSSは、2015年にミャンマー政府と結んだ停戦協定をいまだに破棄していないのだから、徴兵強化の矛先が軍政にではなく、シャン州内のライバル組織に向いていることは明らかだろう。記事中のインタビューで、RCSSの幹部も、「近々、我々は TNLAからの失地奪還の戦いを始めるだろう」と答えている。昨年10月の攻勢で、シャン州北部の覇権を握ったかに見える「三派連合」だが、将来的には、ライバル民族組織とミャンマー国軍から挟撃される可能性もありそうだ。


RCSSの徴兵担当者によれば、徴兵に応じない住民には、家屋や車の没収など、厳罰で臨むのだという。


冒頭記事に話を戻す。


同記事によれば、ドライゾーン内の、亡命政権 National Unity Government (NUG)の影響下にある地域では、強制的な徴兵はなされていないようだ。しかし、「解放区」と呼ぶほどには支配が安定していない村々では、徴兵リスクがない代わりに、国軍側から日常的な攻撃にさらされて、時には避難を余儀なくされ、安定した職や学業の機会を得ることもできない。そうであっても、都会を離れ故郷に戻る若者は増えているようなのだ。


しかし、一部、反軍武装グループの「解放区」では、マイルドな形ではあるが、強制徴用が行われているようだ。今年3月、The Sagaing Federal Council (Preliminary) は「SFC(以下SFC) の支配地域内に避難場所を求める者は、革命闘争に参加するか、反軍抵抗グループの民政部門で一年間働く義務を果たしてもらいたい」という声明を出した。SFC は亡命政権から「独立した」反軍抵抗組織の連合体である。同組織の担当者によれば、3月20日までに、接触をとってきたのは80人ほど、ほとんどがヤンゴン、マンダレー、アヤワディに住む若者だったという。


徴兵リスクを抱えてヤンゴンで学業を続ける、あるビルマ系の若者はフロンティアミャンマーにこう述べている。


「(SFCの提案には)食指が動かないですね。今のところは勉強を続けたい。彼らに奉仕するのは気が進まないし、もともと『革命』に興味もない。でも、もし、軍政に徴兵されることになったら、彼らにコンタクトをとり、民政部門で働くことを志願するでしょう」


シャン州に住むシャン族男性も、こう言って現状を嘆く。


「我々は今、恐怖の中に生きているんですよ。軍政に強制的に徴用されるか、RCSS や他の民族武装グループに徴兵されて兵隊にさせられるか、二つに一つという恐怖の中にです」


<了>


Frontier Myanmar

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