◇ブラックレイン(1989年)〜健さんの達意の日本人英語がかっこいい。
※タネアカシあり。
動画は MovieClips の公式 YouTube から
最初に文句を言っておくと、この映画の題名に抵抗がある。今ならポリコレ界隈で「文化盗用」と批判されるだろう。「ブラックレイン」=「黒い雨」という言葉は、今や、国民の共通体験として神話化されたイメージ、ある種の文化遺産であるわけで、ハリウッド映画のエスニックな味付けために矮小化して使ってほしくないのだ。
今から、30年以上前の映画なのだから、今更言っても仕方がないが・・・。さて、本題です。
全体的には言うと、「ブラックレイン」の高倉健の演技は、「ちょっとやりすぎ」「くさい」と自分は思う。特に空港でのラストシーンは、「夜の大捜査線」のエンディング、シドニー・ボワチエを見送るロッド•スタイガーの自然な演技と比べてしまう。高倉健のは、なんか恥ずかしくなるような、オーバーアクションなのだ。健さんは、この映画でコメディリリーフ的な役所だから、監督からああいう誇張された演技を求められたのかもしれない。(批評ではなく個人の「感想」「好み」です。念のため)
でも、マイケル・ダグラスとうどんを啜りながらビールを飲む、このシーンは好きですね。
一つは健さんの英語。相手に伝わることを念じながら、ゆっくりと達意の英語を喋る。英語を晩学する人の話し方として、ひとつの模範となりうるのではないか。発音は日本人英語だが、文法的には完璧な英語を話している。また、役柄から言っても、これ以上英語が上手いと、日本のデカが喋る英語としては不自然だし、ちょっと「敵に魂を売った」感じにもなるのですね。
やたらに you know とか、like とか、ネイティブ感を出すための単語を挟むこともない。One OK Rock のタカさんなどは、自分は大ファンだし、英語もすごく上手いけども、早口で、Like という単語を多用するのが、進駐軍の日本人通訳みたいで(進駐軍の通訳に会ったことないが・・・笑)、なんか、ちょっと恥ずかしい。
このシーン、演出もいい。マイケル・ダグラスが売人から金を受け取ったことを認めると、高倉健が「君が金を受け取れば、(相棒で殉職した)チャーリーさんを汚し、君自身を汚し、私を汚すことになる」と直言する。マイケル・ダグラスが黙り込むと、健さんがビールを注いでやり、ダグラスが「ありがとう」と呟く。
この Thanks はビールに対してではなく、高倉健が自分を友人として認め、直言してくれたことに対する感謝の言葉なのだが、高倉健にビールを注がせることで、このひねくれ者の口から、Thanks という言葉が自然に出てくるわけですね。ビールのアクションがなく、マイケル・ダグラスがしばらく黙り込んで「ありがとう」とつぶやいた場合を想像してみてほしい。クサいし、この刑事のキャラから言って不自然になってしまう。日米の、少しクセのあるベテラン俳優の個性がかみ合った名シーンでした。
蛇足ですが、もう一人、中年すぎて英語を学ぶ日本人が模範にすべきアジア人は、マハティール元マレーシア首相だと思う。この人も、ゆっくりと、マレー語訛りの発音など気にせずに、達意の、しかし文法的に完璧な英語を話す。こういう英語の方が、中途半端に流暢な英語よりも、ネイティブから尊敬を受けるのではないか。一種の英語国民でありながら、英語をコミュニケーションの手段と割り切っている感じが、なんだか格好いいのですね。
高倉健もマハティールも、我々、平凡人には偉物すぎるアジアンヒーローだが、憧れて、模範にする分には構わないでしょう。
ではでは