ミュージシャンの苦境の象徴となったフリー歌手の死。プラカイファー・プーンドゥアン
プラユット首相がコロナ対策再強化の会見を開き、意味不明のVサインをカメラに誇示した6月26日、デバートの屋上から身を投げて自殺を遂げた女性がいる。プラカイファー・プーンドゥアン。30歳。フリーのミュージシャンで、「プラカイファーチャンネル」というサイトを持つユーチューバーでもあった。
彼女は、他のミュージシャンと同じように、コロナ禍で仕事にあぶれていた。我々が、ちょっとしたレストランで食事をする時、喧噪の中でギターを弾いて歌ってくれる、そういう歌手の卵の一人だったのだと思う。今からだいたい一年前の2020年5月20日、彼女は、自分を励ますように、リスナーに向けてこういう文章を綴っている。
ハーイ、コロナで失業した人、手を挙げて
私はフリーの歌手、二か月仕事がない
全部キャンセルされた 収入はゼロ
私はすべての職業に意味があると思う
音楽だって人の心をいやすことができる
でも他のことをやってみることも大事
得意じゃないこともやってみるから
自分の得意なことを発見できる
歌を歌い楽器を演奏する以外のことをやる
全ての危機の中にチャンスが潜んでいると信じている
心を開き、現実を見つめなおすことが大事ですね
もう一度、皆さんに励ましの言葉をおくります
ああ、我々は、何度、このような空虚な励ましの言葉を自分につぶやいて、かろうじで生き延びてきたことか!彼女は、力尽きてこの一年後に自殺を選んだわけだが、死に至ったかどうかは単なる偶然でしかない。
プラカイファは、このメッセージをつぶやいた数か月後、初めてのオリジナルシングルをリリースする。上に引用した歌がそうだ。備考欄を見ると、監督も編集も出演も本人だから、少し無理をして自分のオリジナル曲を出すことで、歌手としてのキャリアの転機とするつもりだったのかもしれない。それが、かえって彼女を追い詰めることになったのか・・・
曲の題名は「小雨の降る日が好き」備考欄に本人が、「雨が降ると、昔の思い出がよみがえってくるのはなぜなのだろう。何度も何度も、同じことを思い出している自分がいる。」と書いている。おそらく別れた恋人の事を歌った曲だろう。悪くはない・・・
・・・悪くはないが、歌手になる夢を抱いた普通の女の子が、自分の平凡な感傷を歌にしたにすぎい。それがかえって可哀そうで胸に刺さるようだ。このような異常事態がなかったら、彼女は、もうしばらくチャレンジを続けてから、自分に折り合いをつけ、別の道に進むこともできたのではないか。メッセージに自分で書いているように。
コロナ対策の失敗のせいで彼女が死を選んだと一直線につなげる気持ちはないが、ある種の政治家の厚顔さ、ツラノカワノアツサさと、YouTubeで見たこの人の、いかにも脆そうな、ナイーブそうな感じが、あまりにも対照的だったので彼女の歌をアップしてみた。彼女のことを亡くなってから知った多くのファンとともに、ご冥福をお祈りする。
<了>
参考