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【再掲 訂正あり】タイ懐メロの名曲~「天上のフロアーで」(タイ生命保険の広告、その他より)

akiyamabkk

By Hideki AKIYAMA




2021年4月21日に投稿したものを訂正して再掲する。前のものは歌の題名を「ブーゲンビリアのフロアーで」と訳していた。



日本でも少しだけ知られているタイ生命保険のコマーシャル。この広告シリーズの感動の押し売りには辟易させられることが多いが、このCMはそれほどわるくない。妻がアルツハイマーにかかった老夫婦を演じる二人の自然な演技が素晴らしく、「きれいごとだなあ」と思いながらも感動させられる。監督はタイCM界の巨匠、タノンチャイ・ソンシウィチャイ。(※・・・と、YouTubeの備考欄にあったが、もし間違つていたらお知らせください。)


妻が食事の時にいつもかけていた曲を、今は妻を介護する夫がかけると、ふっと昔が蘇つて二人でタンゴを踊りだす、その曲が「いい曲だな」、と思ってオリジナルを探してみた。



曲名は 「天上のフロアーで」。歌詞の意味はざっとこんな感じだ。


心は楽園にいるように躍動し

カンダルヴァ宮殿(インド神話の空想上の楽園)が近づいてくる

タイの天使たちは抱擁しあいって飛び去っていく

天上のフロアーを喜びに酔いながら

アップテンポの優雅なリズムに心は夢見心地

歌の調べに酔って歓喜は極まる

プラレーン(宮廷舞踊の一種)の素晴らしさが

心を沸き立たせてくれるから


※以前、この歌の歌詞を「ブーゲンビリアのフロアーで」と訳したが、歌の内容から考え直して「天上のフロアーで」と訂正した。フゥアンファーというタイ語はブーゲンビリアのタイ名でもあり、ダンス場の名前としていかにも相応しいので、そう訳したが、ここまで歌詞が「天上の楽園」を強調しているからには、やはり「天上のフロアーで」と訂正しておかねばならないだろう。英訳も歌の題を、On the Sky Floor と訳していた。


「タンゴの王様」と言われた往年の名歌手ウィナイ・チュンラブッサパーが歌っている。タイで初めての西洋楽団、スントラボーンオーケストラのリードボーカルだった人だ。このバンドは、政府の音楽広報局に属していたが、民間の催しでも演奏しレコードも出した。スントラポーンはその民間用のバンド名である。ウィナイ氏は公務員との兼業歌手だったわけだ。


作曲は、スントラポーン楽団の創始者で、ウィナイ氏の師匠であるウア・スントラサターン氏。ウア氏は、王室が設立した音楽学校で西洋音楽を習い(バイオリンとサックス!)、王室関係者が運営する映画会社で音楽を担当したのち、1939年に国営ラジオ局が音楽番組を始めると、広報局付の楽団創設を任された。つまり、タイ政府と王室が人工的に移植した「西洋音楽」の草分け的存在である。


スントラポーン楽団を引き継いだウィナイ氏は、そのウア氏の後継者だから、歌い方は明朗快活、心地よいが、あまりにも教科書的に杓子定規なのは致し方ない。思えば、来年還暦という我々の年代が、懐メロとして聞いていた日本人歌手もこういう感じだった。以下は、1928年にリリースされた二村定一の「私の青空」。浅草という泥臭い巷から出てきた点でずいぶん出自は違うが、二村も西洋の声楽を本格的に習った人だったそうだ。



こういうものを聞くと、日本とタイの西洋化、近代化は似ているな・・・と思う。タイの映画史を少し調べた時にも思ったが、10年くらい遅れて日本の近代化を追いかけている感じなのだ。タイは王室を中心に西洋文化を移植し、日本は民間の活力が中心だった、という違いはあるようですが・・・。


<了>


参考



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