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タイフォークの名曲~「満月」(故郷を想う)ガ―・カラワン

akiyamabkk




タイのフォークグループ、カラワンの名曲、「満月(故郷を想う)」


この曲には幾つもバージョンがありますが、私はオリジナルであるカラワンのものが一番好きですね。以下、歌詞の「私訳」。ちょっと難しいところがあったが、無理矢理訳した。


満月(故郷を想う)


満月が煌々と輝いている 空は乳色に美しく照らされ  そよ風が吹くといい気持だ 月の光が私に思いださせる 別離れてきたあの場所を むかし住んだあの家、野畑のことを


水牛たちのそばで焚き火をした その残り火はまだ消えていないだろう お月様よ、風にお願いして 火を燃え立たせておくれ そしてこの寒さを振り払っておくれ  私や同志たちが安らかに眠れるように


セミたちよ、大きな声で鳴いておくれ 何かを待ちわびているその声を 風が運んで、あの人の傍でささやいておくれ 私は今でも待ち焦がれているのだと 何があっても褪せることなく 我々が去ったあの場所を思っていることを


風よ伝えておくれ  恋い慕うこの私の心を 伝えておくれ、タイというこの国に、 あなた方から離れていった子供たちが もうすぐ帰ってきて、 母親の胸に戻るのだということを


この歌を有名にしたガ―・カラワンは、学生時代、共産主義運動に身を投じ、友人と共に森に入り武装闘争を経験した。タイ北部の共産ゲリラの拠点で、同志だった女性からこの歌の存在を知らされたのだという。


アサニー・ポンラチャン

※タイ版ウキペディアによれば、歌の作者はアサニー・ポンラチャンという(右写真の人)1950年代に活躍した左翼陣営の社会評論家で、逮捕を逃れて北京に亡命中、望郷の思いをこの歌に託したのだという。アサニーは結局故国タイには戻れず、1987年ラオスで客死している。享年69。この歌をカラワンに教えた女性はアサニーと同郷の血縁者だった。



タイのオールド左翼にもう昔のような影響力はないし、ガー・カラワン自身、少し前の赤シャツ黄色シャツの政治闘争の場面では、黄色シャツに与して王党派の集会でこの歌を歌ったのだから、時の流れというのは恐ろしい。


しかし、そういうことを抜きにしても、この歌には何か胸にぐっとくるものがありますね。月を見て故郷を想うという感情は、遠くは李白の「頭を挙げて山月を望み、頭を垂れて故郷を想う」があるし、アジアに共通する詩情ではないか。


静夜思


牀前 月光を看る

疑うらくは是 地上の霜かと

頭を挙げて 山月を望み

頭を低れて 故鄕を思う


月は、どこでも、いつでも、同じ顔を見せてくれるから、自然と懐旧の情を起こさせるのではないか。確か、拉致被害者の曽我ひとみさんも、北朝鮮の地で月を見て「あの同じ月を佐渡の人も見ているのだろうか」と思ったと回想していた。


この歌は、エック・カラバオの他、ポンシット・カムピーが歌うバージョンなどいろんな歌手に歌われているが(なんとX Japan のヨシキまでコンサートで演奏している)、純粋に歌だけを評価すると、ポンシット・カムピーのものが一番美しいと思う。ポンシットは、政治闘争に遅れて来た世代なのだから皮肉なものである。


ビデオクリップはTPBS(タイの公共放送)の公式サイトから。


参考


カラバオバージョン


ポンシット・カムピーバージョン(ガー・カラワンとの共演)


アサニー・ポンラチャンについて

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