タイ、野生ハゲワシの再生へ向けて〜フアイカーケーン野生動物繁殖センターのFBページより
- akiyamabkk
- 2022年2月14日
- 読了時間: 6分
更新日:2022年5月31日

タイ語記事「野生再生の希望となったハゲワシたち」から抄訳
<ハゲワシは生態系の掃除人>
・・・人間社会で我々が様々な役割を担って生活しているように、自然界でも、多様な生き物がそれぞれの役割を果たしながら生きている。食物連鎖に沿って言えば、肉食動物である虎は、草食動物を捕食して個体数を制限する役割を果たし、草食動物である鹿が草を食むことで、雑草は過度に繁殖することがない。
自然界が生態系を健全に保つためには、人間社会で街の掃除を請け負うような存在が必要になってくる。野生動物の世界で、動物の死体を餌として食べ、掃除人の役割を果たすのが、ここで紹介するミミハゲワシ(タイ語でパヤーレーン=「ハゲワシの王」の意味)なのである。
<ハゲワシの王、ミミハゲワシとは?>
ミミハゲワシは、タカ科に属する大型の猛禽類で、大きな群れを作らず、広々とした大地を、何時間も単独で飛び回って餌を探すことを好む。羽ばたかなくても長時間空を飛んでいられる能力を持つ彼らは、インド、中国、ミャンマー、インドシナなどアジアの広範な地域に生息する。

タイのミミハゲワシについては、ポンサコーン・パッタポンが「危機にあるタイのハゲワシ」という著作で詳しく記している。ポンサコーン氏は、「タイの生物多様性持続のための研究プロジェクト」でフアイカーケーンのミミハゲワシについて調査した人である。フアイカーケーン国立公園には、かつて、ミミハゲワシ、インドハゲワシ、ベンガルハゲワシの三種が生息していたが、今ではいずれも野生状態では存在しない。
南北アメリカに生息するハゲワシは「新大陸のハゲワシ」と呼ばれ、アジアやヨーロッパ、アフリカに生息する「旧大陸のハゲワシ」よりも、遺伝子的にはコウノトリの方に近い。「新大陸のハゲワシ」は、餌となる動物の死体を嗅覚で見つけ出す。北アメリカで行われた調査によれば、動物の死体を上空から見えない密林の中に置いたところ、ハゲワシは餌を見つけ出し、降りてきて食べたと言う。
「旧大陸のハゲワシ」は「新大陸のハゲワシ」と違って、嗅覚ではなく視覚で餌を見つけるというのが定説だ。しかし、森林パトロールを10年務めた人物からポンサコーン氏が聞いた話によると、上空から見えないはずの森の中にあった鹿の死骸に、ハゲワシが群がっている光景を見たことがあるという。
<自然界の市長さん、ミミハゲワシ>
「ミミハゲワシは猛禽類ですが、餌を得るやり方はタカやワシとは違う。獲物を狩るのではなく、死ぬのを待って、死骸を食べて処理してしまう。いわば、街の衛生管理に責任を持つ市長さんのような役割を、森の中で果たしているのです」
カセサート大学准教授で「猛禽類リハビリプロジェクト」のチームリーダーであるチャイヤン・ケーソンドクブア氏はこう語る。
ミミハゲワシは、生態系のバランスを保って生物多様性を維持することに多大な貢献をしているのである。さらに、ミミハゲワシがいればそこには動物の死骸があり、その動物を捕食した野生動物が存在する。ハゲワシは、森林の豊穣さを示す指標でもある。
ハゲワシは、森を病原菌から守り、健康に保つ重要な役割を担っている。にも関わらず、「死と繋がる不吉な鳥」というマイナスイメージで捉えられてきた。昔は野生動物の研究が進んでおらず、正確な情報を伝えるメディアもなかったから、人々は、迷信によってハゲワシを判断したのである。もしメディアが、ハゲワシの自然界でのポジティブな役割について正確に伝えてくれれば、人々の見方も変わってくるのではないか?チャイヤン先生は、そう期待を寄せている。

<バレンタインデーの悲劇>
2月14日はバレンタインデー、家族や友人、恋人に愛を伝える日だ。しかし、30年前のこの日、豊かな自然に恵まれたフアイカーケーン国立公園内で悲劇は起きた。前述のポンサコーン氏が、胴体を二つに割られたホエジカの死骸を発見したのだ。
この不運なホエジカは、穴という穴に毒薬を仕込まれていた。密猟者たちの仕業だった。一見、民間治療薬のように見える紫色の薬は、フラダーン(カルボフラン)と呼ばれる危険な毒薬だった。
狡知にたけた密猟者は、銃で撃って毛皮を傷つけることなしに、毒薬で虎を殺そうと考えたのだった。しかし思惑通りに事は運ばなかった。虎が来る前に、森の掃除人たちが毒入りの餌を処理してしまったのである。
この事件で自然公園は、森林を衛生管理する重要なメンバーを失ってしまった。ポンサコーン氏は、ホエジカの死骸の周りに、ミミハゲワシの死体が点々と横たわる様を記録している。この日起こった悲劇によって、自然公園内のミミハゲワシは絶滅したのである。

<ミミハゲワシ再生への第一歩>
ミミハゲワシはタイの森林から姿を消し、この悲劇は自然保護活動家に重たい教訓となって残った。それから30年、4つの機関の協力により、ミミハゲワシの野生での再生を目指す試みが立ち上がる。タイ自然公園局、動物園機構、カセサート大学、スプナーカサティアン財団が協力して行う「野生ミミハゲワシ復活プロジェクト」である。
タイ国内の動物園に残ったミミハゲワシ5頭を掛け合わせ、子孫を作らせて、野生に戻すことを目的としたプロジェクトである。動物園機構の研究員、チャイアナン・ポークサワット氏によれば、コラート動物園のオスのミミハゲワシ・ポークと、フアイカーケーン繁殖センターで飼育中のメスのミミハゲワシ・ミンをマッチングさせて、子供を作らせる。
「これまでの研究からすると、自然の豊穣さという点で、フアイカーケーン自然公園は、彼らが子孫を残すのに最適な場所だと思います。なんと言っても、30年前、この自然公園に、野生状態のミミハゲワシが生息していたのですから」
カセサート大学のチャイヤン准教授は、科学的な知見に基づいてプロジェクトを進める必要を強調する。ミミハゲワシはメスがリーダーシップを取り、つがいの選択もメスに主導権がある。だから、コラート県からオスのポークを連れてきて、交尾経験のないメスのミンが気に入るかどうか、まず見定めることにした。二頭を隣り合わせの檻に入れ、金網越しの「お見合い」をアレンジしたのである。

