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アセアンの重要な一歩?(週刊マティチョンより)

akiyamabkk

※週刊マティチョン5月6日付の論説。先の4月24日、ジャカルタで開催された首脳会議で、アセアン各国は「相互不干渉主義」の原則から一歩踏み出し、ミャンマーで対立する政治勢力間の仲介に乗り出す意思を示した。だから、見出しには「アセアンとミャンマーにとって重要な一歩」とある。しかし、コラム執筆者は最後にこう述べている。「だが、私が懸念しているのは、ミャンマー政府の機関紙、New Light of Myanmar の紙面には、アセアンとの合意に関して一行も触れられていなかったことである。ミャンマーの人たちが心配だ。」こちらが筆者の本音だろう 以下、抄訳。


「アセアンとミャンマーにとって重要な一歩」


世界を読む  

ウックリット・パッタマーナン


4月24日ジャカルタで行われた首脳会議では注目すべき前進があったと言えるかもしれない。結論を出す前に、会見の内容、識者の意見や周辺情報を確認しておく。


声明はこう結論として述べている。


「暴力が継続するならば、アセアンは、ミャンマーに持続可能なプランを提示し、政治的人道的な面で建設的な役割を果たすことになるだろう」


以下会見の要旨を箇条書きすると、


1.暴力行為を即時停止し、すべての関係者が最大限の理性を働かせること

2.国民の利益のための解決の糸口をつかむために、すべての関係者が建設的な交渉を行うこと。

3.アセアン事務局長の支援を受け、アセアン特別代表が、関係者間の話し合いが円滑に進むための便宜を提供すること。

4.タイ国のチャイナ―ト県にあるアセアン災害人道支援調整センター(ASEAN Coordinating Center for Humanitarian Assistance on Disaster Management-AHA)を通じて、アセアンは人道支援を行う。

5.アセアン特使とその一行は、ミャンマーを訪れ、関係する各勢力と接触する。


この声明は何を意味するのか?


まず第一に、アセアンが、美辞麗句を連ねるだけで問題解決には何ら寄与しない、かってのような「張り子の虎」ではないことを示した、とは言えるだろう。


しかし、この会議には、クーデターを主導したミン・アウン・フライン上級大将が「首脳」として出席する一方、The National Unity Government(UNG)の関係者や、ミャンマー国民の代表、民族グループのリーダーは、一人も呼ばれていない。彼らが招待されていたら、ミン・アウン・フラインは会議に出席しなかっただろう。


もうひとつ重要な点は、アセアンの代表、特使がミャンマーを訪問し、関係各派と話し合うと明記されていることだ。


が、この点は、政治的プレーヤーの意思や交渉能力次第で簡単にひっくり返されるだろう。ミン・アウン・フライン上級大将は、共同声明を案として持ち帰って話し合うと報道されているが、この案を単に捨ててしまうかもしれないし、最後の段階で特使の受け入れを拒否することもできる。


共同声明を歓迎するポーズは、クーデター勢力のプロパガンダに過ぎない可能性さえあるのである。彼らのプロパガンダは、往々にして、「誰も信じなくても知ったことではない」という体の(「嘘も百回言えば」という類の)、とにかく流布させる、と言う種類のものが多いことを忘れてはならない。


私が最も懸念しているのは、クーデター側が、NUG(国家統一政府)側には「正当性がない」として、まったく話し合う意思を見せず、クーデター政権が恣意的に適用する法律で、彼らを抑え込もうとしていることだ。


クーデター勢力は権力を握りしめてはなさず、ミャンマー国民はクーデター政権を非難して抵抗を続けている。こういう状況からの当然の帰結だが、NUG側は「共同声明には、ミャンマーの民主主義を再建する内容が一切含まれていない」と反発した。彼らが望むのは、単なる仲介ではなく、アセアンや国際社会がクーデター政権を非難し、民主主義の原則にたって、クーデターに抵抗する側を支援することなのである。


◇ミャンマーの危機はアセアンの危機となるか?


この首脳会議はアセアンの危機を回避する最後の機会ではないか。今回、アセアンが歴史上初めて、加盟国に政治的解決を促す目的で首脳会談を開いたのは、そのためだろう。


第一に我々はミャンマーに「関与」し続けねばならぬと考える。ミャンマーの一般市民や少数民族に対しての、軍事政権の野蛮な暴力が、いかに見苦しく耐えがたいものであっても、関与は続けなければならない。もしミャンマーとの関係を断ち切り、アセアンから追放するならば、状況をさらに悪化させることになるだろう。


第二に、もしミャンマーが内戦に突入し、対立がエスカレートすれば、大国の介入を呼び込む可能性があることに注意を向ける必要がある。これが最悪のシナリオで、ミャンマーへの大国の干渉に、アセアン全体が巻き込まれることもあり得ない話ではない。首脳会談が行われる前にジャカルタポストが指摘していたことだが、もし域外の大国がミャンマーに介入すれば、アセアンは地域協力機構としての求心力を失うことになるだろう。


また、こちらは外国プレスが指摘していたことだが、ミャンマーはシリア型の内戦に突入する可能性がある。シリア国民が立ち上がった時、ここまで対立が深刻化するとはだれも考えていなかった。しかし、11年たった今、全ての大国、地域大国が対立に巻き込まれ、犠牲者は数万人を超え、シリアから国民の半分が難民として流出した。おそらくこの惨禍は、ゆうに一世代を苦しめ続けるだろう。


ミャンマーの状況はシリアのそれと似ており、中国とアメリカの代理戦争の場になる可能性があるのである・・・


・・・一部省略


今、私が懸念しているのは、ミャンマー政府機関紙の New Light of Myanmar に、ジャカルタでの共同声明のことが、一行も触れられていないことだ。ミン・アウン・フライン上級大将が出席した会議であるにもかかわらず!


ミャンマー国民が心配だ。


<了>


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