top of page

ある映画サイトへの投稿から〜「東京物語」堤防での老夫婦のシーンから

akiyamabkk

「東京物語」〜東山千栄子が左腕を揉む動作について



※小津の名作「東京物語」の熱海の防波堤のシーンです。クローズアップしたわけでもない、ほんの些細な手の仕草が、異国の青年の無意識を刺激した事について伝えてくて、ある映画サイトへ投稿したもの。ちなみに、YouTubeにおけるこの映像の引用は、こちら側が収益放棄をすることにより著作権者に容認されています。


◇東京物語~防波堤のシーン タネアカシあり


10年くらい前、こちらの(タイです)ある掲示板で、ニュージーランドの若い人と「東京物語」について話しをしたことがある。この青年が「あのお婆さん、時々腕をもんでたでしょ。自分の祖母もああいう風に腕をもむ動作をよくしていて、脳梗塞で倒れて亡くなったからよく覚えている」と言うのですね。その時は「なんという観察力!気づかなかった」とかなんとかコメントして、長いこと忘れていたのだが、今回、いい機会だから確認してみた。


これがなかなか見つからないのですな。彼の言葉から、お婆さんがしょっちゅう、腕あるいは手を揉んでいたような印象を受けたのだが、どの場面だかわからない。「そんないい加減なことを言う奴じゃなさそうだったが・・・」としつこく探していたら、このシーンにありました。ほんの数秒、防波堤に腰かけた東山千栄子が左腕を揉んでいる。この後、この老婦人は、堤防を歩きかけ眩暈がしてしゃがみ込むので、「この善良な老婦人に何か起こるのではないか」という観客の不安は、ほぼ確信に変わるのである。


しかし、驚くではないか、この数秒の動作が、小津が死んだ後に生まれた異国の青年に、眠っていた祖母の記憶を蘇らせたのである。小津も監督冥利につきるというものだろう。


自分にもこれと似たような意味合いのシーンがある。笠智衆が、東京に訪ねた息子の家の二階から、土手の上で遊ぶ老妻と孫を遠目に見る場面だ。何故だかわからないが、このロングショットを見ると必ず涙が出てくる。多分、自分の個人的な記憶とシンクロするからだろうと思い、他にこのシーンで泣く人はいないだろうと考えていたら、IMDb(海外の映画サイト)の掲示板欄に同じシーンで涙が出るという外国の人が何人もいて驚いた。


確か、海外の心理学者が「集合的無意識」という事を言っていたと思う。人間が生きていく上で、世界中、共通にたどる人生の道筋があって、その中で形成される人間の無意識の層にも人類共通のものがある・・・確か、そのような意味だったと思う(たぶん)。大上段に構えて言うと、小津の映画には、この人間の「集合的無意識」に訴えかける力があると言えるのではないか?海外の小津ファンとの自分のごく貧弱な交流からしても、「極めて日本的」とされる小津映画が国際的に評価される所以は、そこにあるのではないかと思うのである。


ではでは

bottom of page