top of page

「改革派」軍人宰相の悠々自適〜テイン・セイン元大統領、国難をよそに趣味三昧(The Irrawaddyより)

akiyamabkk

テイン・セイン著「エヤワディ川の流れ」

The Irrawaddy のニュースサイトより。テイン・セイン中将は、民生への権力移行期に大統領としてミャンマーの改革をリードし民主化に導いた人物だ。昨年2月、軍によるクーデターが勃発した時、この人の動向が注目されても良さそうなはずだが、その去就は話題にもならかった。先日、「さもありなん」という記事が掲載されていたので紹介しておく。


記事の題名は、週刊誌風に訳すと「テイン・セイン元大統領、家を焼かれる国民に我関せず、趣味の絵に没頭する日々」とでもいうところか。同記事は、テイン・セインを「偽物の改革者」と断じ、「国際社会は彼を称賛するのが早すぎた」と、改革に逆行するクーデターを批判せず、沈黙を守り続ける元大統領を厳しく批判している。77歳の老人に対して些か酷すぎる批判のようだが、事実を見ていけば、そう断じたくなるのも仕方がないようだ。


2016年にスーチー氏率いるNLDに政権を明け渡した後、テイン・セインは、かつてのボスであり独裁者だったタン・シュエ上級大将が住む高級住宅街で隠遁生活を送り始めた。最近家を訪れたかつての部下によれば、元大統領は、バギーを乗り回して、趣味の絵画や庭いじりに没頭し、引退生活を満喫しているそうだ。帰りに、庭園で育てたマンゴーと、自作の絵画をお土産にもらったのだという。送られた絵は今年の4月から5月に描かれたもので、ちょうど国軍が村を焼き、彼らが反対派とみなす村人を狩り立てていた時期である。ここが、この記事のポイントで、記事の見出しの由来となった。絵のレベルはというと、中学生の美術の成績なら「もう少しがんばりましょう」という評価だろうか。


絵の他にも、この元部下は、大統領がテェイン・セイン・トゥンの筆名で書いた「エヤワディ川の流れ」という短編集を受け取った。皮肉なことに「平和」がこの短編集のテーマの一つになっているそうだ。さらに、かつては「改革派」閣僚と見做された大統領の片腕、ソウ・タンが書いた「国の将来のための青年教育」という本もプレゼントされ、読むように薦められたのだという。(以下は、元部下が今年5月27日に投稿したフェイスブック記事)



「改革」への後悔を吐露したソウ・タンの著書

改革マインドがある閣僚と称賛されていたソウ・タンだが、この本の中で、軍官僚としての本音を吐露しているようだ。「NLDによる政権が成立した後、軍の復権を望むようになった」という意味のことが、本書に書かれているそうである。テイン・セイン大統領が、自分の元部下に、この本を手渡してわざわざ読むように奨めたのだから、さほど勘繰らなくても、そこに元大統領の現在の心境があると考えても差し支えないだろう。


<テイン・セインが大統領時代、常にタン・シュエの意向を忖度しながら「改革」を進めていた>とか、あるいは、<NLDとスーチー女史の選挙参加を容認したことに激怒したタン・シュエが、大統領とシュエイマン国会議長の間で権力争いが起こった時、大統領に味方せず傍観した>(この二つのエピソードは相い矛盾する内容を含むように思われる)とか、Irrawaddy の記事には、他にもいろいろ興味深いことが書いてあるのだが、全部紹介するのはルール違反だから、これくらいにしておく。詳しくは、下にアドレスを記した英語記事本文をお読み下さい。


もう一つだけ付け加えておく。3月27日に行われた今年の建軍記念行事には、主だった軍のOBたちが顔を揃え、軍の結束の強さを印象付けた。テイン・セインも当然、VIPとして行事に参列したのだが、ミン・アウン・フライン上級大将と直接会って助言を与えた軍OB 二人のうち一人がテイン・セインだったという。アドバイスの内容はわからないが、クーデター団の頭目と元「改革派」大統領は、決して悪い関係ではないようだ。


推察するに、一昨年の総選挙でNLDが再度圧勝した時の軍首脳の危機感はそうとうなものだったのだろう。当然、彼らの不満の矛先は、改革の指揮をとりNLDの台頭を許したテイン・セイン元大統領に向く。テイン・セインは、もう少しで、ソ連崩壊の後、共産党員の怨嗟の的になったゴルバチョフ書記長のようになるところではなかったか?ひよっとしたら、クーデターでもっとも胸を撫で下ろし、ミン・アウン・フラインに感謝した一人が、この元大統領だったのかもしれない。


テイン・セインが最近、公の場に姿を表したのは、5月の中旬、お寺の建立式の主賓としてだった。内務省がアレンジした屈強なボディーガードに守られ姿を表した元大統領は、「絵を描くことで心が集中でき、仏教的な正しい生活を楽しんでいる」と周囲に語ったという。


<了>


テイン・セイン元大統領の描いた絵



<参考>


ソース The Irrawaddy


Aung Paing Min のフェイスブック

写真は、Aung Paing Min氏のFacebookから。

bottom of page