◇「実話映画」鑑賞時のリテラシーと「大統領の陰謀」のあのシーンについて
経験則から言って感動の伝記映画、歴史映画の3割くらいは嘘、というか脚色なんですよね。見る側は、このことをを前提に映画を見た方がいい。映画館の中にいる間は、せいぜい映画を楽しんで、映画館を出たら現実世界に帰ってファットチェックをする。これが現代人の映画鑑賞リテラシーのように思いますし、映画ジャーナリズムもそれに協力すべきでしょう。
また、そのことを、「興醒めなことをするな」などと盲目的映画愛を持って非難したりしないことですね。映画というのは、現代における重要な情報収集の手段でもあって、その場合、ファクトとして記憶するのか、フィクションの一部として記憶するのか、区別する必要がありますから。
アメリカの映画ジャーナリズムなどでは、伝記映画が公開されると、程よいタイムングで、まず必ず、ファクトチェックの記事が出る。たとえば、アカデミー賞主演女優賞を取った「ジュディ 虹の彼方に」では、下のような記事が出てます。批評家も一般の観客も、それが当然と考えている人が多いからでしょうね。だから、3割くらいの脚色は、「実話映画」の評価に影響を与えない。「実録モノ」と言っても、あくまでフィックションなのですから。これは、実録モノの巨匠、笠原和夫氏もそう言っておあられました。
ただ「大統領の陰謀」は例外的に事実に忠実らしいです。検索をかけてみても、事実との乖離を指摘したファクトチェック記事が出てこない。指摘したものがあっても、著者本人が反論している(例えば、ディープスロートを呼び出すときベランダに置く鉢植えは通りから見えないのではないか・・・みたいなトレビアです)。唯一、指摘されていたのは、「ウォーターゲートはワシントンポストだけの力で暴かれ、大統領が辞任に追い込まれたわけではない」ということで、他の大手メディアも報道していたし、FBIも動いていた。(ディープスロートは当時のFBIのNO2だった)これは、ワシントンポストの当時の社主も、そう語っているようです。
唯一、私がまだ疑っているのは、映画の終わり近く、ダスティン・ホフマン演じるバースタイン記者が、事件の重要関係者から「裏とり」をするシーン。ある重要情報の真実性を電話で確認するのですが、その時、「10数えている間に、あなたがこの電話を切らなかったら、私が言っていることは正しいと理解していいか」と聞くのです。相手は「OK」と言って10秒後電話を切らなかった。そして、「これでいい?」と言うのです。これを「裏とり」と認めて、ポスト紙の担当デスクが記事掲載にゴーサインを出す。映画で最もエキサイティングなシーンですが、流石に、これはないだろうと思うのですが・・・
ノンフィクション「大統領の陰謀」の文庫本を持っていたのですが、今、探しても見つからない。このシーンが事実に基づくのかどうか、誰かご存知の方がいたら、教えてください。
ではでは
<了>