ミャンマー軍政に激震〜オンライン詐欺の闇を暴いた映画「孤注一擲」(英題 No More Bets!)
10月27日、ミャンマーのシャン州北部で、少数民族武装組織がミャンマー国軍を一斉攻撃し、150以上の前哨基地を奪取して、同地域の掌握に成功した。コーカン、タアン、アラカンの3つの部族からなる多民族連合軍による攻撃だった。1027作戦と呼ばれる三者連合の軍事的成功は、他の少数民族グループを奮起させ、国軍は各地で守勢に追いやられている。クーデター政権の早期崩壊を予想する声も出始めた。
これに先立つ今年8月、中国本土である映画が公開された。東南アジアの某国某所を舞台にした社会派映画、No More Bets 。(中国名・「孤注一擲」)高給を餌に国境地帯のカジノに誘い込まれ監禁された中国人プログラマーとファッションモデルが、暴力と恫喝によって中国マフィアにオンライン詐欺を強要され、生き地獄を味わうというストーリである。折りから中国本土では、オンライン詐欺の犠牲者が急増し深刻な’社会問題となっていた。現代の奴隷労働を思わせるショッキングな映像の迫力もあって、映画は興行収入5億ドルを超える大ヒットとなった。
これに不満だったのが、隣国ミャンマーとカンボジアだ。名指しこそされなかったが、映画の舞台が両国のカジノをモデルにしていることは明らかだった。9月29日付のミャンマー軍政機関紙「Global New Light of Myanmar」は、軍政が中国側に正式に抗議したことを伝えている。南寧市にあるミャンンマー領事館が、広西チワン自治区外交委員会に「映画はミャンンマーのイメージを著しく傷つける」と懸念を伝えたというのだ。同様の懸念は、カンボジア政府からも中国側に伝えられたという。(東南アジア専門誌 「FULCRUM」より)
自国指導部のイメージダウンには極めて神経質で、上映中止も躊躇しない中国政府だが、「友好国」の懇願を一顧だにせず映画の上映は続けられた。ミャンマー軍部は、中国政府の国際犯罪撲滅への強い意志を感じて震撼したに違いない。国境のカジノで違法ビジネスを展開していたのは、国軍と停戦協定を結んだ少数民族ゲリラだった。しかし、違法ビジネスを大目に見ることで、少数民族武装グループを自陣に繋ぎ止めていたミャンマー軍部に、中国政府が望むような断固とした取り締まりは不可能だった。業を煮やした中国政府は、漢族系少数民族コーカン族の武装組織をバックアップして、国境でのオンライン詐欺ビジネスの実力排除に乗り出した。これが現在、ミャンマー軍政を追い詰めている「少数民族一斉蜂起」の発端、1027民族グループ共同作戦の背景事情であった。
実は、中国との国境地帯でオンライン詐欺を組織していたのも漢族系のコーカン族であり、1027作戦には、コーカン族内部の権力闘争が絡んでいる。軍政に協力して国境警備を引き受ける代わりに、違法ビジネスで莫大な富を得ていた一族を、国軍への協力に反対する旧勢力が駆逐して、部族の主導的地位に返り咲いたという側面もあるのである。(国境地帯でカジノホテルを経営していた一族の長は逮捕直後に「自殺した」と報道されている)この旧勢力がすなわち、一斉蜂起の中核となったMNDAA(ミャンマー民族民主同盟軍)なのである。MNDAAは、反国軍の立場は明確だが、違法ビジネスに資金源を依存する(武器密造、麻薬、覚醒剤)武装組織であることに変わりはないようだ。
こう見てくると、1027蜂起において、亡命政権の軍事組織 PDF(国民防衛軍)が中心的な役割を果たしていたとは考えにくい。しかし、シャン州北部での共同作戦の成功が、他地域の少数民族武装勢力を勢いづかせ、各地で国軍部隊に劣勢を強いていることも事実なのである。瓢箪から駒は出るか?国際犯罪組織からの自国民保護という大国の思惑から生じた千載一遇のチャンスを、民主派勢力はものにできるか?クーデター3周年の2月1日に向けてミャンマー情勢から目を離せない。
以下、映画の公式トレイラー。
参考 Common Goal for Myanmar’s Warring Groups: Currying Favour With China
PUBLISHED 14 NOV 2023 Wrtten By Kyi Sin FULCRUM のホームページより
<了>